iDeCoを考察する
年末年始は投資について調べていた。
iDeCoの考察をしたので整理をしたい。
iDeCoとは
iDeCoとは「個人型確定拠出年金」のこと。詳しくは公式サイトがあるのでそちらをあたると良い。温かみのあるドメインだ。
ざっと調べるとiDeCoには下記の特徴がある。
- 積み立てたお金を投資に回せる
- 元本含めて原則60歳まで引き下ろせない
- 投資の運用益は課税されない
- 積み立てたお金は所得から控除される
- 本人の状況次第で毎月の積立金額の上限が変わる
これらのことは少し調べればわかるため、これ以上の説明は省略する。
リスク
1番のリスクは流動性リスクである。これが最大のデメリットでありリスクであると言っていい。もし30歳から始めた場合、60歳になるまでの30年間は引き下ろせなくなる。
また、将来を楽にするために現在持っているお金を積み立てるわけなので、60歳までキャッシュフローは悪化する。
さらに、運用益は課税されないとあるが受取時には課税される。受取方法によって計算が変わるがとにかく課税される。
加えて、iDeCoであろうがファンドに投資する以上は信託報酬が発生する。この信託報酬は大きな額ではないが、iDeCoだからといって無視されるわけではないということは、いざ徴収されて驚かないためにも知っておきたい。
リターン
一方で、銀行口座への貯金と異なりファンドへ投資を行うためそこには運用益が発生する。楽天証券のiDeCo対象商品であるたわらノーロード日経225を見ると直近5年間の年率リターンの平均は9.46%である。
さらに、iDeCoには所得控除がある。iDeCoのリスクとしてキャッシュフローの悪化を挙げたが、所得控除による節税のインパクトも考慮しなければフェアではない。
例えば、年収500万円の会社員が毎月2.3万円を積み立てたとする。その場合、500万円から2.3万円✕12ヶ月の27.6万円を差し引いた472.4万円が課税対象となる。詳しくは後述するが、この場合の節税効果は年間およそ8.8万円である。
つまり、キャッシュフローの悪化は27.6万円ではなく、そこから8.8万円を差し引いた18.8万円である(厳密には控除額は年収が確定してから決定するため、iDeCoを利用した翌年以降に適用できる論理である)。
シミュレーション
iDeCoによるリスクとリターンの整理はできた。ここでは具体的な数字を当てはめ、30歳から60歳まで積み立てた会社員をシミュレートする。また、節税効果を投資の配当と捉えてその効果を考えてみる。
設定
- 勤務先に企業年金がなく、企業型確定拠出年金に加入していない(つまり毎月の積立上限は2.3万円)
- 毎月2.3万円を積み立てる
- 簡略化のため年間27.6万円の一括投資とする
- 30歳現在の年収は400万円、60歳時に1,000万円とする
- 年収は線形に増加し、年20万円増加するものとする
- 同じ年収でも人によって手取りの金額は変わるため、簡略化のため下記のサイトから得られた情報をもとに計算を行う
投資としてのiDeCo
設定の通り、毎月2.3万円を30年間積み立てたとする。その合計は828万円である。この全てが投資になるため運用益が発生する。
先ほどのたわらノーロード日経225の年率9.46%に今後30年の不確実性を考慮して0.7を掛けた年率6.6%で計算を行った。30年間の投資額828万円は6.6%の複利により2,426万円になった。
節税としてのiDeCo
続いてiDeCoの節税効果について考える。
節税の計算のために手取率を計算し控除後の節税効果を確認する。その後に投資観点でのメリットについて見る。
手取率
先ほどの手取り早見表にある年収の額面と手取りから、手取率の関数を得る。
スプレッドシートで今回の設定範囲である400万円から1,000万円についての手取率をグラフにするとこのようになる。
近似ではあるが手取率は下記の関数であるとわかる。
y = -1.34 / 100000000 * x + 0.847
節税効果
手取率の関数がわかったので、年収がわかれば手取がわかるようになった。
この関数を使ってiDeCo利用時の節税効果を確認する。
グラフを見ると年収が高くなるにつれ節税効果が大きくなっている。それは年収に応じて税率が高くなるため年収が高いほど課税対象額の減少による節税効果が大きくなるからだ。
今回の設定上では節税金額の合計は約281万円だった。
ちなみに、投資額合計の828万円から281万円を差し引いた547万円を投資した資産で保証できれば元本100%となる。
ただ、元本100%とはいえ30年間の流動性リスクを受け入れ、かつキャッシュフローを毎月2.3万円分圧迫したことは変わらない。むしろリスクのみを受け入れたことになるため、あまりよろしくはない。
利率
iDeCoでどの程度の金額が節税されるのかイメージできた。では、この金額は投資の観点ではどうなのだろうか。
グラフを見ると合計投資額が増えるに従って、利率が小さくなっている。iDeCoは所得控除であり合計の投資額に関係ないからだ。
受取
受け取り方法には年金として一定額を受け取る方法と一括で受け取る方法がある。それぞれ控除があり計算方法が異なる。
年金で受け取る場合
数年に渡り受け取る場合は、年金として受け取ることになる。年収から年金控除を行いそこから所得税を差し引く。ここでは年金は想定していないため、iDeCoのみで計算を行うことにする。
年金控除による課税対象の減少は一定率ではなく、130万円以上410万円未満は75%が課税対象になるなど固定の年収の範囲によって課税率が決まる。課税率を掛けた後に年金控除を差し引くのだが、それも同様に年収がどの範囲に収まるかによって決まる。国税庁のサイトが非常にわかりやすいためこれ以上の説明は下記を参照されたい。
また、所得税についても課税対象額がどの範囲に収まるかによって税率が決まる。これまた国税庁のサイトが非常にわかりやすい。
なぜこの税率について細かに調べる必要があったのかと言うと、年金として受け取る場合は、5~20年の間で受取期間を選ぶことができる。つまり、年収を自分で決めることができるため、税率をコントロールできるのだ。
今回のシミュレーションの金額の場合で、受取を5~20年間に変化させた時の税率の変化を表にしてみた。
2,426万円を受取年数で割り年収を得る。それに控除を適用し所得税を差し引く。これが年間の「手取り」である。
興味深いのはグラフの形である。固定の範囲で年金控除や所得税の税率が変化するからだ。20年間の受取と13年間の受取の税率は大きく違わないことがわかる。
5年間で受け取る場合は344万円の税金を支払うのに対し、20年間で受け取る場合は61万円である。税率を考慮した受取戦略の必要性がよくわかる。
一括で受け取る場合
一括で受け取る場合のことを「一時金」と言う。iDeCoを一時金で受け取る場合は退職金とみなされる。退職金には退職所得控除という控除があり計算方法がある。
こちらも国税庁のサイトが非常にわかりやすいため、ここでの解説は省く。
今回のシミュレーションだと30年間の積立で退職金の合計は2,426万円である。課税対象額の計算式に数字を当てはめると下記のようになる。
(退職金 - ( 800 + 70 ( 勤続年数 - 20 ))) / 2 ↓ 具体的に数字を当てはめると (2426 - ( 800 + 70 ( 30 - 20 ))) / 2
これを計算すると課税対象額は463万円になる。これに税率20%を掛けて427,500円を控除として差し引くと、徴収される税金は498,500円だとわかる。
一時金で受け取る場合は、2,426万円から498,500円を引いた約2,376万円になる。
所感
iDeCoの所得控除は正しいのか?
計算していて気になることがあった。本来であればキャッシュフローに影響を与えるような"配当"は投資額に対して利率を掛けたものである。しかし、iDeCoの場合は所得控除である。そのため、年収が高い人の方が積み立てた金額に関係なく配当が大きくなっている。本来は、年収が低い人の方が流動性リスクを取っているはずであり、より多くの配当をもらって然るべきなのだが、そうはなっていなかった。
もちろん所得控除を配当と捉えたこと自体が誤っている可能性はある。きちんと金融工学を使ったわけではない。だが、毎月2.3万円を支払う余力のある高所得者の節税効果が大きくなる一方で、流動性リスクを受け入れづらい低所得者ほど節税効果を期待できないというのは非常に世知辛い。
累進課税を行い高所得者ほど税金を高くするのであれば、節税に関する制度は所得が小さくなるほどその効果が大きくなるようにしても良かったのではないだろうか。高所得者であっても運用益が非課税になるのであれば、市場にお金を回してくれることは十分期待できたのではないだろうか。
受取の戦略
これは一括だろうと思う。受け取ったらさっさとETFなどに全額投資し、複利で膨らませながら数年に渡り切り崩す。どういった生活をしたいかによるが、これなら切り崩す割合を調整して税金が高くなりすぎないようコントロールできる上に資産も増えるはずだ。リスクを嫌うならETFではなくETNなどにしても良いと思う。
やるか、やらないか
おそらく下記の事項を意思決定時に考慮すべきだろう。
- 流動性リスクとキャッシュフローの悪化を受け入れることができる財務状態であるか
- 他の投資商品と比較して運用益が節税効果を上回るかどうか
- 828万円を積み立てずとも支払えるのであれば、他の投資商品に回してしまえば運用益が節税効果を上回るだろう
つまり、投資にバンバンお金をつぎ込めるほどではないがある程度の資金力がある高所得者にメリットが最大化する。あとは生活と相談といったところだろう。
リスクゼロというリスク
投資一般に言えることであるが、意思決定の基準は「どこを目標に、どの程度のリスクまで受け入れることが可能なのか」ということである。とにかく多くリターンが欲しいというものではない。
iDeCoは運用益の非課税だけでなく所得控除も発生するため、比較的リスクの小さい仕組みであると言える。ただ60歳まで引き下ろせない流動性リスクをどう捉えるかである。リスクの捉え方・付き合い方をハッキリさせることが非常に重要になるだろう。
この点について、iDeCoを含めた少額投資を行わないというリスク判断はある意味リスクでもある。リスクゼロというのはリターンもゼロなわけだが、それだけではなく資本主義社会においては期待損失が大きい。
数字
計算シート
参考
- 作者:デービッド・G.ルーエンバーガー
- 発売日: 2015/03/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)