組織のナレッジマネジメントは難しい

透明性で何を実現したいのか中途半端なまま透明性を謳う組織が多いと思う。また、経営層の決定事項を詳らかにすることを透明性としている場面を見かける。しかし、それは透明性ではなくて経営層が大きな声で発しているだけだと思う。
とはいえ自分の中の「なんか違う」の違和感と「どうあるべきなんだろう」を整理しておこうと思う。来年くらいに読み返したらまた違った意見になるかも。
考えるキッカケとなった記事はこちら。

note.com

透明性って経営層だけのものだっけ

いきなり私見だが、組織の透明性の意義は情報の非対称をなくし組織のどの階層でも同じ意思決定ができるようにすることだと考えている。
この情報の非対称を防ぐためには、片方しか知り得ない情報をなくせば良い。その意味では、上から下への透明性だけではなく、下から上、横同士の情報の透明性もまた必要になると思う。また、透明性は各所での意思決定の再現性を担保するためであるから、結論だけではなく意思決定プロセスが共有されるべきだと思う。
この思考はLayerXとSlackの考え方に全面的に賛成だった。

tech.layerx.co.jp

slack.com

情報の流れにはどの種類があるか

情報の非対称について組織のどこが非対称になるのかを考える。この時、非対称が起こる方向は下記の3通りであると考えた。それぞれに意味や情報の流し方の工夫が違うと思う。

「上から下」の透明性

この透明性の目的は、全社戦略に即した意思決定をどこでもできるようにするため。つまり全体と一部で同じ意思決定を再現させるため。
開発組織では(少なくとも観測範囲では)アジャイル開発が基本となり、意思決定の数が細かく・多い。透明性を上げ意思決定の判断材料を提供することで、戦略と戦術の意思決定に統一感が生まれる。目標達成に向けてベクトルが一致する。実行の効果は高まり無駄な資源も生まれづらいため費用対効果が高まる。
事業活動以外にも、例えば社内文化は文化の意図も含めて透明にすることで定着という効果を高める。中途半端に行えば伝達コストが増えるし意図した効果は出ない。

「下から上」の透明性

この透明性の目的は、戦術の実行結果を戦略に素早く反映するため。実績は仮説の検証結果であり、仮説をより深くより強くする。次の実行の効果が高まるため、費用対効果が高まる。
事業活動以外にも、例えば透明性を感じていないというフィードバックを上に上げることがあると思う。

「横同士」の透明性

この透明性の目的は、知識の有効活用のため。透明性のない組織では課題を認識・分析・解決する材料が行き届いておらず、各所で課題の再認識・再分析・再解決が発生する。知識を有効活用し、同じ轍を踏まないようにすれば、労力をなくして解決できる。
また、横同士の透明性は社内のどこに何を聞けば良いかわかるため人的資源の有効活用にも繋がる。視点が増えるため課題の認識・分析・解決の効率が上がるため費用対効果が高まる。

transactive-memory.md · GitHub

アクセシビリティ

透明性だけあっても情報にアクセスできなければ活用できない。情報の交通整理が必要。アクセシビリティは下記の3通りに整理してみた。

  • アクセス不可
    • ファイルに権限がある場合など
    • 特定の人だけを限定的に集めたMTG
  • アクセス困難
    • 情報が展開されているが、情報共有ツール/社内Wikiから探し当てることが難しい
    • チャットツールで完結している
  • 理解困難
    • 議事録に残されている内容が名詞ばかりでただのメモ
    • 文意が一意に定まらない
    • 前提となる情報や結論が欠損している

何を情報とするか

透明性とアクセシビリティは自律的に意思決定を行う組織になるための手段。それを考えると透明性であるかどうかの基準は良質で高速な意思決定材料を現場に与えることができているのかということになる。やはり、必要なのは意思決定の過程であり、その意思決定の前提や背景、意思決定に使われた基準、他の選択肢こそ共有されるべきだと思う。意思決定の過程の理解を深めることで他の場所でもその意思決定の再現(もしくは正しい反論)ができる。

情報を流すために

透明性を上げるためには情報を公開することに加えて議論の場を設けることが重要だと考える。特に同じチーム内の振り返りを公開したりチーム関係なくシャッフルして組織や事業について議論をすると、他チームで行っていることや重要視していること、価値観がわかる。視点を混ぜて議論することで暗黙知形式知に引き出す。
また、他チームメンバーの顔と名前が一致する。

corp.kaonavi.jp

アクセシビリティを上げるためには、情報の置き場所を定めることと論理展開のフォーマットを整備することだと考える。 公開権限で置き場所を定めるだけで今よりかなり情報にアクセスしやすくなり、また知らないところで行われていた議論も表に出てくる。議論のフォーマットは前提情報、実行できる選択肢、意思決定の基準、意思決定の内容、意思決定の理由、について主語と目的語がわかりやすく記載されていれば良いと思う。

同期的である必要は一切ない。必要以上にMTGに呼ぶ必要はなく、必要な情報が整理され所定の場所に置かれさえすれば良い。そうすれば非同期に情報を渡せる。非同期の情報共有が整備できておらずMTGに出席しないと情報を得られないからこそ、MTGに呼びたがる。

構造的な問題

情報が限定的だと発生する構造的な問題として情報のブローカーがある。

ブローカーとストラクチュアル・ホール

限定的な情報にアクセスできる人は情報の仲介役であるブローカーになる。組織内の情報はブローカーを通して伝わる。ブローカーは、兼務していたり、チームの境界で働いている人がなりやすい。
ストラクチュアル・ホールとは、情報が伝達するまでの距離に相当する(グラフで言うとノード間の距離)。ブローカーを介して情報のコミュニケーションをするほどストラクチュアル・ホールは大きくなる。
このストラクチュアル・ホールを埋めるためにブローカーには負荷がかかる。社歴が長く事情通な人はブローカーになりやすく、ブローカーとしての働きを見て社内では優秀と評価されることが多い。そしてブローカーはブローカーとしての仕事を続けてしまう。しかし、むしろドキュメンテーションやコミュニケーションの工夫で伝達コストを減らしストラクチュアル・ホールを減らすアクションを評価した方が建設的。

en.wikipedia.org

構造的属人化

ブローカーは構造的属人化であり、ストラクチュアル・ホールは仕組みで減らしていくべきだ。なぜなら、これは透明性やアクセシビリティと対立するからだ。
組織の階層構造と情報の伝達構造は必ずしも一致させなくて良い。透明性とアクセシビリティを高めると構造的な属人化は減り、技能的属人化を防ぐことに集中できる。
個人メンションやDMが多い組織では、個人メンションやDMを多く受ける人こそがブローカーだと言える。

下からのフィードバック

情報を透明にしアクセシビリティを高め、フィードバックはブローカーが全て別集団に流してくれるとする。そして日々の振り返りでは心理的安全性が担保され意見(フィードバック)が多く出ているとする。しかし、そのような意見を上が受け取らなかった場合、徐々に意見はなくなる。これは意見効力感の欠乏からくる。
意見効力感を高めるためには意見を出して良かったと思える実感と意見が採用・不採用された納得感が必要になる。そのため、上が下からのフィードバックを受け取ったことをフィードバックする必要がある。また、下からのフィードバックをどのような基準で意思決定したのか過程を公開する必要がある。それは効果(組織を変えること)を実感し費用(意見を出すこと)を払うことに繋がる。
ブローカーがフィードバックを仲介すると、ブローカーが情報を止めた途端にその集団の意見効力感が減少する。つまり、ブローカーはフィードバックループを握っている。そのため、ブローカーに依存しないフィードバックループを設計した方が良い。ブローカーに依存すると、ブローカーによって情報伝達や学習効率は律速する。

note.com


ばーっと書きだしたため根拠に薄い部分が多くいまいち論理的ではないけれど、体験ベースで書き下したので個人的には納得感がある。会社で起きたことを事例としているので、あまり詳細に書けない部分があるが今後読み直した時に学びがあると嬉しい。ただ、今後は組織論の本とか読んでもう少し学術的な見地も加えて改めて考えを整理してみたい。

ナレッジマネジメントの設計とか大きい組織でしてみたいね。。。